方法マシン主催公演『サーチエンジン』


サーチエンジンflyer ■日時:2008年7月18日(金)
18:30開場/19:00開演
■会場: 山手ゲーテ座
■入場料金:前売1500円、当日2000円
■出演:大井浩明(名誉マシン)、方法マシン

■企画・主催:方法マシン
■制作:今井貴紗子
■制作協力:ナヤ・コレクティブ
■協力:山手ゲーテ座/創造空間 9001 /横浜ホステルビレッジ/横浜創造界隈 ZAIM
■後援:横浜市芸術文化振興財団

search engine stage

『サーチエンジン』について

 従来のようにあらかじめプログラムが決められているのではなく、舞台上に設
置されたインターネットのサーチエンジンを使用して楽譜を検索し、演奏曲目を
決定します。選曲の過程から、楽譜のプリントアウト、プリントアウトされた楽
譜の演奏まで全て見せます。主催者や演奏家の主観などによる選曲でもなく、公
募による抽選でもない、完全に機械的なプロセスを経て構成されるコンサートです。

 このコンサートは、以下の三つの要素で成り立っています。

1 まず簡単な検索ワードを元に、インターネットでピアノ曲の楽譜を検索する。

2 検索された楽譜はプリントアウトされる。

3 プリントアウトされた楽譜はただちに名誉マシンとして迎えられるピアニス
  トによって演奏される。

 これらは全て観客の前で行われます。

 このように『サーチエンジン』は従来のコンサートのプログラムコンセプト
(選曲方法の理念)とは一線を画した方法で選曲されるコンサートになってま
す。察しの通りコンサート当日になるまで、どのような音楽が演奏されるかは
誰にもわからないスリリングな公演となるでしょう。

『サーチエンジン』は偶然なのか?

 方法マシンが本公演で行う〈インターネットで検索をする〉という過程は、そ
れ自体は言うまでもなく他の誰でも実行可能なことである。それどころか勿論、
誰もがあらゆる局面で実行している過程と寸分も違わない。挙句この過程による
「選曲」は、他の誰かが実行したとしても同じ結果になるだろう(公演の瞬間に
於いては)。

 もういちど、本公演の特徴を確認してみたい。まず、本公演は前項「『サーチ
エンジン』について」に書かれている3つの要素を持つ。ここに、これらが「全
て観客の前で行われ」ることを加えて、以上4つが本公演の特徴と言える。

 あえて触れてみたいのは、この方法では「コンサート当日になるまで、どのよ
うな音楽が演奏されるかは誰にもわからない」一方で、コンサート当日、あなた
が開演の瞬間に検索したとしても決まる曲目は同じになるだろうということだ
(当然、同じ単語を入力する限りで)。
 いったい誰が選曲しているのか? 本公演における方法マシンは曲目の選考委
員ではなく、そしてその担当は誰もいない。けれども検索は(方法マシンの実行
する手順を経過して)確かに曲目を決定する──その結果は、誰によって(誰に
とって)最適化されているのか? たとえば、特定の誰かが曲を選んでいるので
はなく、しかしながら地球上で検索を繰り返している全員が選曲に参与している
とは言えるだろう。

 この「選曲」方法をどう評価すればいいだろうか? もしあなたが本公演の曲
目を聞くに堪えないものと感じるならば、その先には、検索に溢れた我々の日常
こそが見るに堪えない羅列の参照によって出来上がっているということさえ立ち
現れてくるだろう。
労働・創作・夕食の献立……日常生活のあらゆる局面で消費される〈ちょっとキー
を叩くくらいの弱いエネルギー〉が、本公演の曲目を綯い交ぜにし、もしくは誰
かの生活を歪に決定し、あるいは絵画や詩や音楽を破壊する。

 検索を参照する日常は、はたして主体をも融解させる。誰一人として本公演の
曲目を決めないのと同じように、検索をするとき、あなたの人生もまた誰でもな
いものによって決められている。検索することの堆積が検索結果を組み上げてい
くのと裏返しに、この環境があるからこそ手放しに検索することが可能になって
いる、という対を持つ状況が生じている。
ボードリヤールの例と同じ仕方で言おうとすれば、誰があなたを検索しているの
だろうか? 少なくとも検索エンジンとあなたとは共犯関係にあるはずなのだが。

 もちろん方法マシンは、コンサートの曲目が何であったかについては保証し得る。
 けれども、まさにその曲目が選ばれてしまったことについては方法マシンは何
ら特別の責を負い得ない。

演奏曲目


[第一部:起動]8曲
Adam Morgan - Etude No.3
Gilbert De Benedetti - The Monkey and the Mirror
John Mitchell - Op. 2 Seven Color Pieces for Piano : 1. Violet
Robert Schumann - Kinderszenen : Tra¨umerei, opus 15 no 7
J.S.Bach - Minuet in D minor
Antonio Vivaldi - Winter : Largo
David Nevue - Solitude
Akon - Don't Matter

[第二部:加速]40曲
Moszkowski - 15 Etudes de Virtuosite (Op72) No.1
Scott Joplin - Maple Leaf Rag
Dan Connolly - Arpeggio in D, a three−chord ditty with bridge
Scriabin - Prelude, Op59 No.2
Johannes Brahms (Arr by Gilbert DeBenedetti) - Lulluby
The Fray - How To Save A Life
R.Nathaniel Dett - Cave of the Winds
Jingle Bells
Volkmann - Ernster Gang.
Anonymous - Aria
Arr by Alana LaGrange - Nearer my God to Thee
Mozart - Rondo Alla Turca (III)
Koji Kondo(Arr by Joseph M.Rozell) - Don't Stand on the Donut
Arr by Ben Landis - Teenage Mutant Ninja Turtles
KANON - 日溜まりの街 (KEY)
東方紅魔郷 - おてんば恋娘(ZUN)
フリーチベットプロジェクト
3つの想い〜楽譜に託して〜
Happy Birthday to You
Fr.William Dinga, Jr. - Our Father
Pachelbel - Canon in D
Five for fighting - Superman
Robbie Williams - She's The One
J.S.Bach - BWV114 Minuet
You Raise me up
James Ray Morris - For Patti, only
Arr by Alana LaGrange - Nearer my God to Thee
Silent Night
Arr by Ben Landis - Pollyanna (I Believe in You)
Hanon no.1
movie "Prince of Egypt" - When you believe
Simon & Gargunkel - Bridge Over Troubled Water
TheKen(Transcribed by Peter Yang) - Numb
Beethoven - Fur Elise
Enya - Caribbean Blue
東方永夜抄 - 恋色マスタースパーク (ZUN)
T.Badarzewska - A Maiden's Prayer
Mark Mothersbaugh - The Sims 2 Theme -Seasons-
Jonathan Coulton (Arr. Jarrett ) - Still Alive
Scott Joplin - The Entertainer

[アンコール]
Fujita Junpei - ありがとう、あなたへ from H20 〜Footprints in the Sand〜

平成20年度[第12回]文化庁メディア芸術祭入選

 2008年7月18日にゲーテ座で行われた方法マシンによる
 『サーチエンジン』が平成20年度[第12回]文化庁メディ
 ア芸術祭のアート部門に、2,146作品の応募の中から、
 「審査委員会推薦作品」として入選しました。
 http://plaza.bunka.go.jp/festival/2008/recommend/

 文化庁メディア芸術祭は、年に一度行われるアートとエ
 ンターテイメントの祭典であり、特にアート部門ではメ
 ディアアートを扱う部門ではありますが、『サーチエン
 ジン』は方法マシンがプロデュースしたコンサートプロ
 ジェクトとして、音楽部門が設けられていないにも関わ
 らず、音楽としての立場で応募しました。

 その上での入選ということは、『サーチエンジン』は現
 代のメディア社会と音楽の関係を考える上で審査員にとっ
 て無視できなかった試みだったのだろうと認識していま
 す。

 2月4日から受賞作品展が国立新美術館がありますので、
 まだ何を行うかは未定ですが、是非ご来場頂ければと願
 います。

 注1:
 メディア芸術祭のweb上では安野太郎(方法マシン)
 という表記で紹介されていますが、『サーチエンジン』
 は、基本アイデアこそ私が考えたことは確かですが、名
 誉マシンを始めとして、方法マシンメンバー全ての力で
 行った公演です。

 注2:
 メディア芸術祭のweb上ではインスタレーション
 とカテゴライズされておりますが、『サーチエンジン』
 は方法マシンによるコンサートプロジェクトです。
 (追記:その後、確認の問合わせをした結果、
 「インスタレーション」は誤表示であることが判明し、
 「その他」に訂正されました。2008.12.16)

 2008年12月9日

方法マシン『サーチエンジン』デモンストレーションビデオ(ハイビジョン対応)

第一部『起動』

Google
検索係
  • 検索係は簡単な検索ワードで、pdf形式でダウンロードできるピアノの楽譜を検索する。この日の検索ワードは、sheetmusic "for piano" pdf download
  • 検索結果上位一番目のサイトから順番にアクセスし、pdf形式の楽譜を探す。
  • 画面をスクロールし、最も上にあるリンクを辿る。pdfファイルに辿りついたら、直ちにダウンロードする。
  • ファイルのダウンロード後、pdfファイルを画面に表示し、印刷枚数を告げて直ちにプリントアウトする。
プリンター
  • 検索係の操作が終わったら、検索係の照明及びプロジェクター画面は消え、プリンターにスポットが当てられる。
  • 楽譜運搬係はプリントアウトが終わり次第、直ちに楽譜を譜めくり係に渡す。
ピアニスト
  • 照明がピアノとピアニストに当てられ、曲のタイトル及び作曲者名が告げられた後、直ちに演奏を開始する。
シュレッダー
  • 演奏が終わった楽譜は、直ちにシュレッダーにかけられる。
  • ここまでの一連の手順を一曲づつ繰り返す。(次の曲は検索順位上位二番目のサイト)
  • アクセスしたサイトが、会員登録の必要なサイト、サーバーのダウン、リンク集だけのサイトの場合は却下となり、その旨は観客に伝えられる。

第二部『加速』

第二部
  • 第二部は、検索、プリントアウト、楽譜の運搬、演奏、シュレッダー、全てが同時に行われる。
  • 第二部の検索方法はwebサイトの検索ではなく、pdfファイルを直接検索するという方法をとる。
  • pdfファイルを直接検索する場合、Googleの場合は、「filetype:pdf」というコマンドを検索ワードと共に入力すれば良い。
  • 検索係は検索結果に表示されたpdfファイルを上から順に次々と100ファイルまでダウンロードする。
  • ダウンロードされたファイルは全て楽譜というわけではない。
  • 仕分け係は、ダウンロードされたpdfファイルを全て開き、それが楽譜であるかどうか、さらにその楽譜がピアノソロの楽譜であるかを判定する。
  • ピアノの楽譜を見つけたら、楽譜は直ちにプリントアウトされ、pdfファイルを左の画面に表示する。
  • たとえ難曲が出て来ても、演奏家は直ちに初見で演奏しなければならない。
プリンター
  • 演奏中も検索、プリントアウト、楽譜の仕分け、楽譜の運搬は続いてる。
  • 第二部は、英語での検索に加え、日本語でも検索を行った。
  • 我々は特に拍手が来る事を想定していなかったが、この日は全ての演奏に対して聴衆からの拍手が送られた。
  • この日演奏されたピアノ曲は、簡単な子供の為の練習曲から、ゲーム音楽のアレンジ、ポップス、ジャズ、歌謡曲、どこかの作曲家がweb上にアップロードしている作品からクラシックの超難曲まで、多種多様に及んだ。

演奏中も検索とプリントアウトは続く。


プリントアウトされた演奏前の楽譜。


シュレッダーにかけられた演奏後の楽譜。


聴衆の多くは、通常の演奏会にあり得ない曲目の組み合わせと、全曲初見による超人的な演奏を楽しみながら、私たちを取り巻く情報化社会との関わり方をダイレクトに感じ取っていた。

http://method-machine.com